Wajima
技術:輪島塗(わじまぬり)
古くから「親の湊」と呼ばれる石川県・輪島市。かつて中国や朝鮮半島との交流があったと言われており、中国で発祥した漆芸が日本に初めて伝えられたのが輪島の可能性が高いと見られています。というのも、輪島の気候が漆の乾燥に適しているほか、漆が取れるヒノキやアテ(あすなろ)などが豊かに育てられます。輪島での漆芸の工程が代々的にに洗練されていき、優れたもの作りの追求もあってか、ユニークな生産プロセスが生まれました。このように生まれた「輪島塗」は、140工程があるとされており、数多くの道具、職人と工房に支えられています。
私たち「Japan Artisan Foundation」 、能登半島・輪島市へと足を踏み入れ、輪島塗の魅力に出会いました。
輪島塗の工程の多さとそれぞれの美しさに衝撃を受け、完成品はもちろんのこと、ここそれぞれの工程における制作物も作品そのものと捉えられます。
しかし、分業化だけあってのリスクもあり、コロナ禍によって更に加速した職人の人数や素材の減少に伴い輪島塗は大きな危機感に直面しています。私たちは、一分も早く、組織としての活動を始めたのが、輪島になると決断しました。
PROJECTS
SAKAZUKI
私たちはコロナ禍の最中から、このプロジェクトに取り組んでいました。希薄になった人間同士の関係性のことを考えているうちに、古くから伝わる「盃を交わす」ことで「絆」を強くするというコミュニケーションを内包するコンセプトに惹きつけられました。そこで、YOSHIROTTENに行為を伴うアート作品としての盃の制作を提案したところ、快く承諾して頂けました。
YOIN
EASTERN SOUND FACTORY社(以下ESF)との共同により、スピーカーユニット〈Yoin〉を製作しました。 輪島塗の下地塗で使われる“地の粉”を漆に混ぜて塗布。これにより、渋みのある洗練された外観と音質の向上を実現させました。
GHOST LINKS
佐渡島在住のアーティスト〈シャルル・ムンカ〉の主導により、漆を使ったアート作品を制作しました。輪島の町を散策し、輪島塗に携わる多くの職人たちとの対話を重ねたムンカは、偶然に出合った『時代椀大観〈第1輯〉』(松田権六他編)からも多くの着想を得て制作に着手。
YO-KOU
伝統工芸と最新のテクノロジーを掛け合わせるプロジェクトの第一弾として、光る漆塗りの器〈Yo-kou〉を制作しました。「夜空に浮かぶ月の光が、盃の中に映えるようなイメージ」をコンセプトに、大阪市に本社を置く化学品製造企業の日本触媒と、輪島市の漆器工房・輪島キリモトが共同で制作に着手。
ARTICLES
椀木地(わんきじ)
椀に代表される、円形の器を作る技法です。挽物木地(ひきものきじ)とも呼ばれるとおり、ロクロで木地を回転させ、木地師の手製による多種多様なカンナを使って削り(挽き)出します。木の削れる音や手に伝わる振動、感触などを頼りに、木地師は狂いのない美しい円を仕上げます。
曲物木地 (まげものきじ)
側面の板を円形または楕円形に曲げ、丸盆や弁当箱などを作る技法です。材料となる原木は、アテ、ヒバ、ヒノキの柾目板(まさめいた ※木の中心部付近を製材した板で、密度が高く直線的な木目をしている)を使います。
指物木地(さしものきじ)
角物木地とも呼ばれるとおり、板を組み合わせて重箱、硯箱、箸箱、角盆、膳などの角物(かくもの)を作る技法です。材料となる原木は、アテ、ヒノキ、キリなどを使います。
朴木地(ほおきじ)
猫脚、片口、仏具、匙など、曲面の多い複雑な形状の木地を作る技法です。適度な堅さと加工性を持つ朴の木を多用することが名の由来で、彫刻の技術に拠るところから刳物木地(くりものきじ)とも呼ばれます。
下地塗(したじぬり)
木地の形を整え、傷みやすい部分を補強することで丈夫で緻密な塗肌を作る下地塗の工程は、この堅牢さを支えるもっとも重要な作業であり、「布着せ」や「本堅地」といった輪島塗ならではの技法を用いることも大きな特徴のひとつです。
研物(とぎもの)
塗り跡に残る凹凸を平らにし、面を均一にすることで、より美しい塗面に仕上げる工程です。また、研ぐとは傷をつけることと同義であり、その微細な傷に漆が入り込むことで木地と漆の密着性を高める効果があります。
上塗(うわぬり)
塗りの最終工程です。繰り返し濾過された純度の高い上質な漆を丹念に塗り上げます。繊細さと注意深さ、それに何より高度な塗りの技術が要求される技法です。
呂色(ろいろ)
塗りあがった上漆の表面をさらに研ぎ、鏡面のような艶が出るまで磨きあげる技法です。上質の研ぎ炭、そして最終的には職人の指と皮脂を道具に、毛筋ほどの傷も残さないように仕上げます。
蒔絵(まきえ)
器の表面に漆で絵や文様、文字を筆描きし、その上に金や銀などの金属粉を蒔き付けて定着させたのち、文様の部分に漆を塗り重ねて磨く技法です。上記の平蒔絵(ひらまきえ)に加えて、金属粉を蒔き付けた器の全面に再度、漆を塗ってから磨く研出蒔絵(とぎだしまきえ)、文様を盛り上げて立体感を出す高蒔絵(たかまきえ)の三つが基本的な技法です。
沈金(ちんきん)
上塗を施した器にノミで文様や絵柄を彫り込み、その彫った溝の部分に金銀の箔や粉を押し込んで装飾をする技法です。基本となる彫りは線彫り、点彫りのふたつで、そこに刃の形状や彫りの角度、深さなどの変化を加えることで、精巧かつ立体感のある装飾に仕上げます。