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椀木地(わんきじ)

椀に代表される、円形の器を作る技法です。挽物木地(ひきものきじ)とも呼ばれるとおり、ロクロで木地を回転させ、木地師の手製による多種多様なカンナを使って削り(挽き)出します。木の削れる音や手に伝わる振動、感触などを頼りに、木地師は狂いのない美しい円を仕上げます。椀の他、主なものとしては菓子鉢、茶托、丸盆などがあります。

工程概略

1 型はつり(かたはつり)

図面をもとに輪切りにしたケヤキ、トチ、ハンサ(みずめ桜)、クリなどの原木を、ナタなどで荒く削って木地の原型である荒型(あらがた)を作る。

2 燻煙乾燥(くんえんかんそう)

おが屑などを燃やした煙で荒型を燻しながら一ヶ月ほど乾燥させる。その後、さらに倉庫で数ヶ月、長いときには半年から一年かけて自然乾燥させ、含水率を調節する。これにより、木地の形状に狂いが生じなくなるとともに、完成後のひび割れを防ぐことができる。

3 荒挽き(あらひき)

ロクロで荒型を回転させながら、カンナを使って仕上がりよりもひと回り大きめに挽き、再び乾燥させる。

4 木地挽き(きじひき)

手製のガイド(定規)で椀の高さや形を測りながら、ロクロとカンナを使って木地の外側を挽き(外挽き)、次に内見棒(つっこみ)と呼ばれるガイドで椀の深さを測りながら挽き(内挽き)、最後に椀の糸底(椀の底にある輪状の部分)を挽いて完成。

【特徴的な技法】

燻煙乾燥……木地を挽いたときに出る木屑を燃やし、その煙で荒型を燻して乾燥させる技法。急激な乾燥による木割れを防ぐため、一ヶ月近い時間をかけて木地の外側からゆっくりと水分を抜き、最終的には含水率をゼロに近い状態にする。その後、適度な湿度を保った専用の部屋に荒型を移し、今度はより長い時間をかけて空気中の水分を吸収させる。ここで含水率を11~13%まで上げ、椀木地にとって最適な水分量を得る。

挽き……職人手製のカンナを使い、木目も硬さも異なる荒型(木地の原型)を、美しい曲線を描いた木地に仕上げる技法。椀の口径や深さなどを測るガイド(定規)も使いながら、最後は職人の腕と感覚で仕上げる。

【道具】

ロクロ、鉋、櫛砥、カイ型、内見棒(つっこみ)など

【特性と技法の応用】

椀木地師の真骨頂である挽きの技法によって生み出される曲線・曲面は、機械でさえ真似することが不可能と言われるほどに滑らかで美しいものです。

「一番難しいのはアール(曲線・曲面)を作ること。だから、削りながらいろんな物差しや、口径などを測るガイドを使う。少しずつ挽いては物指しを当て、違うなと思ったらまた挽いて、を繰り返す。自分の感覚、つまりは経験からくる勘みたいなものに頼る面はもちろんある。でも、勘だけでは挽きません。人間の感覚にも怪しいところがありますから」

こう話すのは、椀木地師の寒長茂(かんちょう・しげる)さん。この仕事について五十年にもなる大ベテランだが、そんな同氏でさえ“挽き”には神経を使う。

「挽きに使う物差しやガイドは自分で作ります。カンナも手作りで、私の場合、ひとつの椀を挽くのに使うカンナはだいたい六本。挽く部位によって使い分けるのですが、刃はすべてハイスピードスチール(高速で金属を切削する工具に用いられる特殊な鋼)を使っています。通常の鋼の刃に比べて刃がなまりにくいので扱いやすいし、堅い材料にも対応できる」

堅い材料というワードに関連して、同氏は現在の木材事情についても言及する。

「いま、材料がどんどん悪くなっていて、昔は絶対に使わなかったような堅い木が増えている。しかも、その堅い木でさえ市場になかなか出回らない。これは、山から木を伐り出す職人の数が減ってきているからなんだけど、山から木が下りてこなきゃ私らは何もできないわけで、これは大問題だよ。挽く前の木地は通常は半年から一年は置いておくんだけど、いまは材料自体が少ないからそんなに長くは置いておけない。必然、在庫は減るし、堅い木も使わざるを得ないのが現状」


慢性的な後継者不足に悩む伝統工芸の世界だが、実のところ、原料となる木材を切り出す職人にはまったくと言っていいほどスポットが当たっていない。同氏の言葉は、この意味の重大さを改めて思い知らせるものである。


齢七十を超えて尚、同氏は精力的だ。現状を危惧しながらも立ち止まることなく、新たな挑戦に情熱を燃やし続けている。


「試しに作ってみたのが、このスプーン。『つぼ』と呼ばれる先端の丸い部分を四等分して仕上げるのですが、そうすると美しいラインが出る。スプーンは口からの抜けが大事。その心地よい抜けを、ロクロ挽きの技術を使って作るわけです」


同氏はこれ以外にも円形のブレスレットなども自作しているが、その根っこにあるのは、「曲線を生かした新たなものを作りたい」という飽くなき思い。そのため、丸いものと何かを組み合わせてできる、「椀木地師にしか作れないもの」を常に模索しているのだという。同氏は最後にこう付け加える。


「例えば高級料亭とかで木地を薄く挽いた椀が好まれるみたいな傾向があるけど、自分は物にはちょうどいい厚みってものがあるんじゃないかと思っている」


木地の厚さ、薄さに着目するのもまた、新たな応用への手がかりとなりそうです。