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指物木地(さしものきじ)

角物木地とも呼ばれるとおり、板を組み合わせて重箱、硯箱、箸箱、角盆、膳などの角物(かくもの)を作る技法です。材料となる原木は、アテ、ヒノキ、キリなどを使います。

工程概略

1 乾燥

製品の寸法をもとに板状に切断した原木を、日当たりと風通しの良い屋外で半年以上、さらに屋内で数ヶ月、自然乾燥させる。

2 木取り(きどり)

製品の寸法に応じて、板目、柾目などを考慮に入れながら各部品を切り出す。

3 組み立て

木取りした各部品をカンナで削ったのち、各部の板を組み合わせ、木釘や刻芋(こくそ ※生漆に米糊、ケヤキの木粉を混ぜたもの)を使って接着する。剥離しやすい接着部については、さらにヒモや輪ゴムで固定して一昼夜以上、自然乾燥させる。

4 立木づけ

外側の角が丸みを帯びた製品の場合には、角の内側に立木板を刻芋で接着する。乾燥後、接着した部分を寸法に合わせてノコギリなどで切り取り、角が丸くなるように仕上げる。最後、全体をカンナで削り、形を整える。

【道具】

鋸、鉋、鑿(のみ)、掛引き、差し類のほか、ホゾ刳型、足刳型などの型類、昇降盤や自動鉋などの木工機械など


【特性と技法の応用】

指物では数センチ角ほどの極小サイズの箱から大物の家具まで、いわゆる角物と呼ばれる家具調度の類を、釘などの金具を一切使わずに組み立てます。

「四つの角のすべてに綺麗な直角を出して、底板もきっちりと隙間なく嵌めていく。とてもシンプルですし、簡単そうに聞こえるかもしれませんが、これがなかなか難しい。基本と言うと語弊があるかもしれないが、指物ができないと他の仕事にも応用が利かないんじゃないかと思う」


二十三歳でこの世界に入り、今年十七年目を迎えるという久保田さんは、「輪島キリモト」で木地づくりを担当する職人です。
他の木地師と同様に、その仕事は木を切り出すことから始まります。


「組み立てたときの姿をイメージして、木のどの部分を使えばより美しく仕上がるかを考えながら切り出す。次に部材それぞれの寸法に合わせて、長さ、幅、厚みをカンナで削る。ここで一番に意識するのは、平面と直角を正確に出すこと。なので、使う道具にも精度の高い調整が必要です」


久保田さんは、指物のみならず次項で扱う「朴木地」も手掛ける。

「何か新しいものを、なんて言うとおこがましいですが、作ってみたいという純粋な思いから、『蓮の葉皿(はすのはざら)』という器を作りました。デザインから仕上げまで、すべて自分で考えたものです」


一方で、同氏は古くからあるものに目を向けることも忘れない。


「木地の型には、昔から受け継がれてきたものが数多くあるのですが、それをデザインし直すことで何か新しいものに落とし込めたら、と考えています。昔のものには、そのネーミングも含めて魅力的なものが沢山ある。しかし、残念ながら現在はほとんど作られていない。実際に作るとなったときの一番の障害は需要があるかどうかなのかもしれませんが、このまま放って置いたら、そういう古き良きものが埋もれていくことは間違いない。それを変えるための何かをしたい」


古くからあるもの改めて掘り起こし、そこから新たなものを生み出す……。

まさに温故知新の精神と言えそうだが、技法の応用にも通ずる有意義なものの考え方であることに間違いはなさそうだ。