ARTICLES
朴木地(ほおきじ)
猫脚、片口、仏具、匙など、曲面の多い複雑な形状の木地を作る技法です。適度な堅さと加工性を持つ朴の木を多用することが名の由来で、彫刻の技術に拠るところから刳物木地(くりものきじ)とも呼ばれます。その他、主なものには花台、座卓、銚子の口、棚などがあります。
工程概略
1 乾燥
製品の寸法をもとに板状に切断した原木を、日当たりと風通しの良い屋外で半年以上、さらに屋内で数ヶ月、自然乾燥させる。乾燥後、製品の各部分の図面を作り(形取り)、図面に従って各部を切り出す(木取り)。
2 中仕上げ削り
木取りした各部を電動カンナ、または平カンナで大まかに削ったのち(荒削り)、ノミや小刀、カンナを使って全体の形を図面どおりに削り出し、木地の原型である荒型を作る。
3 仕上げ削り
ノミ、小刀、カンナで荒型の細かい部分(曲面などの複雑な部分)を削り、図面どおりの形に仕上げる。
4 むら仕上げ
小刀、カンナを使って、木肌が滑らかになるように削ったのち、目の細かいサンドペーパーで全体を磨いて完成。
【道具】
鋸、鉋、豆鉋、鑿、小刀、さし類、型類など
【特性と技法の応用】
「万能な仕事。大きいものならテーブル、小さいものならスプーンまで、ある程度のものは全部できないとダメ。それらをすべてひっくるめて朴木地」
朴木地という技法を自身の言葉でこう表現するのは、「輪島キリモト」で木地を担当する隅和範さん。朴木地とは適度な硬度と緻密で均一な木質を持つ朴の木などを用いて、曲面の多い彫刻的な細工物を刳る技法だが、なかでもその顕著な例のひとつである「銚子の注ぎ口」について隅さんが続ける。
「祝いの日などに使う屠蘇(酒)を入れるための、急須のような形をした銚子のことです。本体の丸い部分は椀木地師が、注ぎ口は朴木地師が作るのですが、本体と完全に密着させるための曲面の刳り出しなどは、実に繊細な仕事が必要。当たり前のことですが、酒を入れたときに漏れ出したら商品になりませんし、極小の隙間でさえ水分の浸透を招き、将来的には深刻なひび割れを引き起こす」
他にも香木(沈香、白壇などに代表される芳香を放つ木材)を入れておくための沈箱(じんばこ)や猫脚座卓の脚、仏具、匙など、刳ることで生まれる木地は数多い。
必然、使われる道具も多種多様で、隅さんの仕事場にも豆カンナやなまぞり(薙刀の刃に似た彫刻用の刃物)、やりがんな(槍の穂先に似た刃をつけた柄の長い)、丸ノミなど、「必要があって、自然に増えた」という三百近い数の道具が揃っている。
これらに加えて朴木地師、ひいては木地師全般には「治具(じぐ ※加工や組み立ての際、部品や工具の作業位置を指示、誘導するために用いる道具の総称)」が必要不可欠だと隅さんは言う。
「治具を自らの手で作るのが、朴木地師としての勉強の第一歩。例えばスプーンをひとつ仕上げるにしても、何十時間もかけて作るなら誰だったできる。そうではなく、いかに時間を短縮して効率良く作れるか、そのためにはどのような治具が必要なのか、それが考えられなきゃこの仕事はできない。
治具を作るにはそれなりの経験値が必要だし、おいそれとすぐにできるものではないが、まずは自分の頭で考え、組み立てることを学ぶのが大事。その意味では、ものを作るときに、どうすればそれを作れるかを考えるのが仕事だとも言える」
治具の重要性を熱く語る隅さんには、作りたいものがある。
「御殿型の猫足の座卓、これの洋風版を作ったら面白いと思う。脚部を長くするとどうしても不安定になるが、この難点を技術的に解消するのが私の仕事。おそらくですが、脚部を着脱式にしないといけないんじゃないかと思っています。まあ、まだ取り組んでいないので何とも言えませんが、そのための治具が必要になるんじゃないかな、と」
和から洋へのアレンジもまた、技法の応用のひとつ。そこで立ちはだかる障害がまた新たな技法を生み、さらなる応用へと繋がっていくのかもしれない。