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曲物木地 (まげものきじ)
側面の板を円形または楕円形に曲げ、丸盆や弁当箱などを作る技法です。材料となる原木は、アテ、ヒバ、ヒノキの柾目板(まさめいた ※木の中心部付近を製材した板で、密度が高く直線的な木目をしている)を使います。その他、主なものには湯筒、茶櫃、飯櫃、轡(くつわ)型盆などがあります。
工程概略
1 割小羽(わりこば)
必要な長さに切断した原木を四ツ割りにする。それを木目に従って必要な厚さに専用のナタで削ぎ割る、または薄手のものは電気ノコギリで挽いて板割りをしたのち、屋外で二~三ヵ月ほど自然乾燥させる。
2 水浸し
およそ一昼夜、水に浸した板を数日かけて自然乾燥させる。これにより、板がしなやかになり削りやすくなる。その後、カンナで削って形を整えたのち(中仕上げ)、板の両端の接着面を斜めに削り(合わせ目削り)、再び一昼夜、水に浸して板を柔らかくして曲げやすくする。
3 曲げ
水分を含んだ板を、丸太で作った木型(ころがし)に合わせて曲げる。轡型や小判型など、板を楕円に曲げる場合もそれ専用の曲げ型を作り、これに合わせて曲げる。次に、曲げた板の両端を重ね合わせ、挟み具と紐で固定して数日間、乾燥させる。その後、重ね合った部分に漆、またはおし糊(漆と糊を混ぜたもの)や木工用ボンドをヘラで塗って接着してさらに数日間、乾燥。乾いたのち、重ね合わせた部分の厚さが全体のそれと均しくなるようにカンナで削る(胴仕上げ)。
4 底板仕上げ
寸法より大きめに切り出した底板用の板(底板木取り)をカンナで削り、ある程度まで形を整えたのち(底板中仕上げ)、底板の原型で型を取ってノコギリで切り出す。そして、切断面をカンナで削り、型どおりの美しい円、または曲線に仕上げる。
5 総仕上げ
曲げた板を底板と組み合わせたのち、カンナで裏面の縁、または上縁を削って高さを調節します。最後、物差しで上縁の直径を測り、歪みがある場合は職人の手で整形する。
【特徴的な技法】
曲げ……木の性質を利用し、円形、またはそれ以外の形状に木を曲げる技法。
【道具】
鋸、鉋、割木羽(わりこば)用の鉈、尺杖(しゃくじょう)と呼ばれる円周定規、コロガシ(曲げ用の型)、木鋏(固定用の紐にはツヅラフジの蔓などを使う)、木工機械など
【特性と技法の応用】
木地師は、文字通り木材に精通した職人ですが、なかでも曲物師は“曲げ”という技法を扱う特性上、とりわけ木目には細心の注意を払います。
曲物師は、自ら丸太を割って木を切り出します。曲げに使われる柾目の板は、木目の密度が高いことで変形のリスクが低く、また水分を吸収しづらいという利点があります。しかし、同じ柾目といってもその状態はさまざまで、曲げに使えるかどうかを最終的に判断するのは職人の目です。
現在、輪島市で二軒しかない曲物木地専門の木工所のひとつである「蔵田木工所」を営む、曲物師の蔵田満さんはこう話します。
木の状態は、自分で目視しないとわからない。その上で、いいところは曲げ材に使う。柾目は直線的な木目が特徴的だけど、木目が曲がっていても曲げに使えるものもある。
曲げは歪みの連続。きれいな円に見えても、部分的には歪んでいるんです。だからそんなには気にならない、というか気にならないように手を加える。それが技術です」
曲げる木の厚さは一分五厘(4.5~5ミリ弱)ほどで、幅のあるものは内側をカンナで薄く削って曲げやすくする。
「まず確認するのは木の張り。その具合を見ながら削って、円にしたときになるべく歪みが出ないようにする。歪みにくくするため、曲がりやすくするための技術は他にもある。例えば、木の表と裏の両面に曲がりの癖をつける両張り(りょうばり)という方法。こうすると木が柔らかくなって曲がりやすく、後々の修正もしやすい」
水に浸けた木の板は、型を使って一気に曲げる。折れずに曲げるには適度な木の油分が不可欠。水に浸けるのも、木の種類によって違いはあるものの、「湯で煮る方法もあるが、そうすると水分が蒸発しやすいし、油が抜け過ぎる場合がある」(蔵田)からで、すべてが理にかなっている。
「ひと口に曲げと言っても、挽き曲げ(ひきまげ ※曲げようとする面の内側にノコギリで切れ目を入れて曲げる方法)とか内曲げ(うちまげ ※縁を切って、いくつも組み合わせる方法)とか、実は曲げの技術にもいろいろあるんですよ」
聞くと、そのような技術を使うと半月型はもちろん、「もっと複雑な形やデザインにも仕上げることもできる」と蔵田さんは言います。
一般的な円形や楕円形以外にも、曲物には多様な形状を作り上げる技法があるという一事は、その応用の可能性の幅を広げるものです。同時に、伝統工芸の世界には、普段はほとんど使われない“眠れる技法”が少なからず存在することを示唆するものと言えるのではないだろうか。