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――― 漆 × ART ―――
佐渡島在住のアーティスト〈シャルル・ムンカ〉の主導により、漆を使ったアート作品を制作しました。輪島の町を散策し、輪島塗に携わる多くの職人たちとの対話を重ねたムンカは、偶然に出合った『時代椀大観〈第1輯〉』(松田権六他編)からも多くの着想を得て制作に着手。「その町に固有の美、色、テクスチャー、建築を発見し追求する」というムンカの創作姿勢を反映させた全10点の作品を完成させました。漆を扱う工程に関しては「輪島キリモト」の若き漆芸家〈桐本晃平〉の協力のもと、下地塗、上塗り、金継ぎが施されました。漆という特異な素材がもつ色味や奥行き、艶感が充分に表現されたうえでのアートとの融合は、漆の潜在能力の高さと未知の可能性を改めて感じさせる仕上がりとなっています。自然の素材であるがゆえの漆の経年変化が作品の表情を今後、どのように変化させていくのかもまた、興味深い作品群です。
◆制作に於けるシャルル・ムンカの言葉◆
「そこに思考は介在していなかった。
パターンと向き合うことで、それは自ずと現れる。
複数のパターンを組み合わせると、それがある形を成す。
一歩、また一歩と、完璧に仕上がるまでそれを繰り返す。
まるで古い曲をサンプリングするように。
私は松田権六をサンプリングして、新たな物語を紡いだ。
そう、音楽を作るときのような感じで。
そこにはもはや物語はなく、より感覚的な世界があるのみ。
構図、形、テクスチャー……。
輝きを放つ下層の赤色と、無光沢なカーボン紙との対比」
――Charles Munka――
【 Profile 】
①Charles Munka/シャルル ムンカ
1981年、フランス南東部のリヨンに生まれる。スイスや香港のアートシーンで名を馳せたのち、上海、東京を経て、現在は新潟県佐渡市を拠点に活動。イタリアで興った“アルテ・ポーヴェラ”や韓国の“単色画”などの先鋭的なアートの影響を受けつつ、自身の身の回りの環境を強く意識した作品づくりが特徴。その土地の歴史やそこに流れる時間、風景、人々の日々の営みなどから得るインスピレーションを創作の基軸に、独自の表現を模索し続けている。これまで、シンガポール〈Opera gallery〉、ロサンゼルス〈HVW8〉、チューリッヒ〈Galerie Clemens Gunzer〉、香港〈The Cat street Gallery〉〈Para/Site〉〈Above Second〉、東京〈Institut Francais東京〉などで個展を開催。また、『LEAP Magazine』(中国)、『NOVEMBRE Magazine』『DUEL Magazine』(共にフランス)を含む多くの出版物に作品が掲載されている。https://www.charlesmunka.com
②桐本晃平/Kouhei Kirimoto
1992年、石川県輪島市に生まれる。樹液としての漆が液体から固体へと変化する際の造形力を用いて、漆を布や土と掛け合わせた作品を制作している。また、国内外のアーティスト、ブランドとのコラボレーションにも積極的に取り組みながら、さまざまな境界を越えて、人と漆が交わることによって再認識される生命力の可能性を追求している。これまで、東京「GALLERY TSUKIGIME」、「伊勢丹新宿」、京都「STARDUST」、高知「GALLERY OKYAKU」、香港「SOIL」などで個展を開催。
【 制作工程 】
①漆を使ったキャンバスの作品4点
a.輪島キリモトでの工程(※下地工程は4作品共通)
1)キャンバスの木目を埋めるために漆と米糊を混ぜた延べ漆を擦り込み、固まったらヤスリで研いで滑らかにする
2)漆の表面を整えるために黒色の中塗り漆を塗り、固まったらヤスリで研いで滑らかにする。この作業を3回繰り返し、表面の凹凸を平らにして下地が完成
3)以下、4点の作品それぞれの仕上げの工程に入る
作品①『Nocturnal』“黒” ――黒色の上塗り漆を塗る
作品②『Antheia Ⅰ』“赤口朱” ――赤口朱の上塗り漆を塗る
作品③『Antheia Ⅱ』“溜” ――赤口朱の上塗り漆を塗ったあと、その上から透明度の高い朱合漆を塗る
作品④『Muddy Bunks』“白削り出し” ――黒色の上塗り漆を塗り、その上に白の上塗り漆を塗る。表面をヤスリで研ぎ、部分的に下層の黒漆を露出させる
b.シャルル・ムンカの工程
1)イラストレーターを使ってパターンの構図をデザインする。※構図は『時代椀大観〈第1輯〉』(松田権六他編)にインスパイアされて作成された
2)デザインした構図をカッティングシートにレーザーカットし、キャンバスに貼り付けてマスキングする
3)マスキングした下地にアクリル塗料を塗り重ねる。アクリルは作品ごとに異なる色を用いる
4)塗料が乾く前にカーボン紙を乗せて接着し、乾かす
5)乾燥後、カーボン紙を剥がす。これにより、塗料にカーボンが付着して黒色の斑模様が現れる
6)マスキングしていたカッティングシートを剥がし、イラストレーターでデザインしたパターンを露出させて完成
②浮標(ブイ)
『Float Ⅰ』 ―金継ぎ浮標―
※このブイには元々、赤い塗料が塗られていました。金継ぎは表面のひび割れした部分にのみ施します
1)漆と米糊と燻煙乾燥させたケヤキの粉を混ぜた木屎漆(こくそうるし)を数回に分けてブイのひびに塗る。一度に厚く塗ることができないため、ひびの深い箇所は何層にも重ねて塗り込む
2)固まった木屎漆の表面をヤスリで削って滑らかにする
3)木屎漆の上に中塗り用の黒漆を2~5回塗り重ねる
4)固まった中塗り漆の塗面をヤスリで削って滑らかにする
5)金粉の発色を際立たせるため、中塗り漆の上から弁柄漆を塗る
6)弁柄漆が固まる前に金粉を蒔き、漆が固まったら完成
『Float Ⅱ』 ―塗り浮標―
1)塩分は漆の定着を阻害するため、まずはブイを真水にさらして染み込んだ海水の塩分を抜く
2)ブイの表面全体が漆を吸わなくなるまで、中塗り用の黒漆を5回に分けて塗り重ねる。この際、漆を1回塗るごとに一日から数日間置いて漆を固める
3)表面がしっかりと漆で覆われたら、上塗り用の黒漆を2回塗り重ねる
4)黒漆の上から上塗り用の朱漆を2回塗り重ねる
5)紙やすりで朱漆を軽く研ぎ落とす。これにより凹の部分には朱漆が残り、凸の部分には下層に塗った黒漆が現れる
6)水に溶かした研粉を布に染み込ませてブイ全体を磨き、程よく艶を出したら完成
SAKAZUKI
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