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研物(とぎもの)

塗り跡に残る凹凸を平らにし、面を均一にすることで、より美しい塗面に仕上げる工程です。また、研ぐとは傷をつけることと同義であり、その微細な傷に漆が入り込むことで木地と漆の密着性を高める効果があります。使われる砥石は、研ぎ面の形状に合わせて丸いもの、尖ったもの、凹面のものなどさまざまです。

【工程/特徴的な技法】

地研ぎ……下地塗を終えた器の塗面を水研ぎして平滑にし、器を仕上がりの寸法どおりの形状に整える技法です。下地作業の最終段階であり、ここでの研ぎの良し悪しが漆器の完成度を決める、と言っても過ぎることがないほどに重要な工程です。器の角や縁の微妙な厚みなどを調整しつつ、美しい直線や曲線、平面が出るように研ぐためには優れた造形力が求められます。角物(重箱など)は手作業で、挽物(椀など)はロクロを使って回転させながら研ぎます。

【特性と技法の応用】

一見すると地味な作業に思われがちな研ぎの工程ですが、その実、漆器づくりには欠くことのできない重要な役割をいくつも担っています。では、研ぐとは具体的にどのような作業なのか。

「輪島キリモト」で研物を担当する坂下しずえさんが話します。

「まずは、塗りの高い(厚い)部分を探して凹凸を研ぎならすことから始まります。高い部分を研いで、低い部分に合わせていくような感じです。砥石を当てて、その当たり具合で凹凸を見つけるのですが、手に伝わる感覚を基本に、光に当てたときの反射なども頼りにしながら研ぎ進めます。漆は固まるときに引っ張り合う性質があるので、面の部分は漆が薄くなり、縁の部分は漆が厚くなる。その微妙な高低差を見つけ、研ぐことで全体を均一に仕上げるわけです」


均一に仕上がった塗面には再び漆が塗り重ねられますが、この際、研ぎによって塗面についた傷(溝)に漆が入り込むことで密着性が高まります。


「研ぎは美しい塗面を作るだけでなく、漆器の強度を増すための作業でもあります。また、研ぐことで器の形を整えるというのも大きな役割。


加えて、研ぐ際に塗面を仔細に見ることで、微細な穴が開いていたり、縁が欠けていたりなどの欠陥箇所の有無も確認します。仮に何かしらの欠陥があった場合は、工程を逆行してその欠陥を修復できるところまで遡る。中塗、上塗のすぐ前の研ぎの工程である『地研ぎ』では特にその意味合いが強く、完璧な下地かどうかを判断する最終チェックを兼ねた工程だと言えます」 


まさに“縁の下の力持ち”を地で行く研物の工程ですが、応用を考える上では、研ぎ跡をあえて表に出す形での「研ぎの過程を可視化したプロダクト」なども面白いのではないでしょうか。


また、研ぎに特化した技法としては加飾の工程に登場する「呂色」があり、その可能性を独自に推し進めています。



中塗(なかぬり)

 塗りの最終工程である上塗のための美しい土台を仕上げる工程です。まず始めに、下地漆よりも純度の高い中塗漆を刷毛で全体に塗り、温度と湿度を調整しながら塗師風呂(ぬしぶろ ※杉板で作られた収納庫)で乾燥させます。その後、表面に付いたゴミや埃を鉋で削る(錆ざらい)、へこみなどの欠陥箇所を漆で埋める(つくろい錆)、青砥石や駿河炭で水研ぎをする(拭き上げ)などの作業を行ったのち、上塗に引き継がれます。